犬の呼吸器疾患:咳・呼吸困難の原因と自宅ケアのポイント
愛する家族の一員である愛犬が、苦しそうに咳き込んだり、呼吸が荒くなったりする姿を見るのは、飼い主さんにとって非常につらいものです。これらの症状は、もしかしたら呼吸器疾患のサインかもしれません。
呼吸器疾患と聞くと専門的な知識が必要なように感じますが、飼い主さんが日常的に愛犬の様子を観察し、異変にいち早く気づくことが、愛犬の健康を守る上で何よりも重要です。この記事では、犬の呼吸器疾患について、その主な症状、考えられる原因、そして飼い主さんが自宅でできるケアのポイントや注意点について、獣医の監修なしで一般情報として詳しく解説していきます。
もちろん、最終的な診断や治療は獣医さんによるものですが、この記事が愛犬の呼吸器の健康に対する理解を深め、異変に気づいた際の第一歩となることを願っています。
犬の呼吸器疾患でよく見られる症状
犬の呼吸器疾患は、その原因や部位によって様々な症状が現れます。特に注意すべき代表的な症状を以下に挙げます。
1. 咳(せき)
犬の咳は、人間の咳と同様に、気道内の異物や刺激物を排出するための防御反応です。しかし、頻繁な咳や長引く咳は病気のサインである可能性が高いです。
- 乾いた咳(ケンケンとした咳): 気管支炎、気管虚脱、ケンネルコフなどで見られます。乾燥した環境で悪化することもあります。
- 湿った咳(ゴホゴホ、ゼイゼイとした咳): 肺炎、肺水腫、気管支拡張症などで見られ、痰が絡んでいるような音がします。
- 発作的な咳: 興奮時や運動後に激しく咳き込む場合は、心臓病による肺水腫や気管虚脱などが考えられます。
- 嘔吐を伴う咳: 激しい咳込みによって喉を刺激し、反射的に嘔吐してしまうことがあります。
咳の音や頻度、咳をするタイミング(食事中、運動後、夜間など)を観察し、記録しておくと良いでしょう。
2. 呼吸困難・呼吸が速い・荒い
呼吸困難は、酸素が十分に体内に取り込めない状態であり、非常に危険なサインです。
- 呼吸が速い(頻呼吸): 普段よりも呼吸回数が多い状態です。運動後や興奮時以外に続く場合は注意が必要です。
- 呼吸が荒い・努力性呼吸: お腹や胸を大きく動かして呼吸しているように見える状態です。鼻翼(小鼻)を広げたり、口を開けて呼吸したりすることもあります。
- ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音: 気道が狭くなっている場合に聞こえることがあります。喘鳴(ぜんめい)と呼ばれます。
- 開口呼吸: 苦しそうに口を開けて呼吸する状態は、特に小型犬や短頭種では熱中症のサインであることもありますが、呼吸器疾患の重篤な症状でもあります。
- チアノーゼ: 舌や歯茎が青紫色に変色している場合は、血液中の酸素が不足している非常に危険な状態です。緊急を要します。
3. その他の症状
- いびき: 短頭種に多く見られますが、扁桃腺の腫れや軟口蓋過長症などにより、気道が狭くなっている場合があります。普段よりも大きないびきや、苦しそうないびきは注意が必要です。
- 鼻水・鼻血: 鼻炎、副鼻腔炎、鼻腔内腫瘍などが考えられます。透明な鼻水だけでなく、膿性や血液が混じった鼻水は注意が必要です。
- 元気消失・食欲不振: 呼吸器疾患による体力の消耗や不快感から、これらの症状が見られることがあります。
- 発熱: 感染症による肺炎などでは発熱を伴うことがあります。
犬の呼吸器疾患の主な原因
犬の呼吸器疾患は多岐にわたり、原因も様々です。ここでは、よく見られる主な原因をいくつかご紹介します。
1. 感染症
- ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎): ウイルス(パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなど)や細菌(ボルデテラ・ブロンキセプティカなど)の混合感染によって起こる呼吸器の感染症です。乾いた咳が特徴で、子犬や免疫力の低い犬がかかりやすいです。
- 細菌性肺炎: 細菌感染により肺に炎症が起こる病気です。湿った咳、発熱、食欲不振、呼吸困難が見られます。誤嚥(ごえん)によるものや、他の呼吸器疾患からの二次感染として発症することもあります。
- 真菌性肺炎: 真菌(カビ)の吸入によって起こる肺炎です。特定の地域で発生することがあります。
- 寄生虫: フィラリア(犬糸状虫症)は心臓の病気として知られていますが、重症化すると肺にも影響を与え、咳や呼吸困難を引き起こすことがあります。
2. 気道の構造的な問題
- 気管虚脱(きかんきょだつ): 気管を構成する軟骨が弱くなり、気管がつぶれてしまう病気です。小型犬、特に中高齢犬によく見られます。興奮時や運動後にガチョウの鳴き声のような乾いた咳が特徴です。
- 短頭種気道症候群: パグ、フレンチブルドッグ、ブルドッグなどの短頭種犬種に特有の呼吸器の問題の総称です。鼻腔狭窄、軟口蓋過長症、喉頭小嚢外転などが組み合わさり、常に呼吸が苦しい状態にあります。いびき、開口呼吸、熱中症のリスクが高いです。
- 喉頭麻痺(こうとうまひ): 喉頭の筋肉を動かす神経に異常があり、喉頭が正常に開閉できなくなる病気です。大型犬の中高齢犬に多く、呼吸時に「ヒューヒュー」という異常音(吸気性喘鳴)が聞こえ、呼吸困難を引き起こします。
3. アレルギー・炎症
- 慢性気管支炎: 長期にわたって気管支に炎症が続く状態です。原因は様々ですが、アレルギー、刺激物の吸入、感染症などが考えられます。慢性的な咳が特徴です。
- アレルギー性気管支炎(犬ぜんそく): アレルゲン(花粉、ハウスダスト、カビなど)に反応して気管支が収縮し、炎症を起こす状態です。喘鳴や呼吸困難が見られます。
4. 心臓病による呼吸器症状
- 僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)など: 心臓病が進行すると、血液の循環が悪くなり肺に水がたまる「肺水腫(はいすいしゅ)」を引き起こすことがあります。これにより、咳(特に夜間や安静時に悪化)、呼吸困難、元気消失などの症状が現れます。心臓病と呼吸器疾患は密接に関わっているため、咳や呼吸困難が見られる場合は心臓の検査も重要です。
5. その他
- 腫瘍: 肺や気管、鼻腔内に腫瘍ができることがあります。咳、呼吸困難、鼻水、鼻血などが症状として現れます。
- 異物: 草の種、小さな骨などが気管や気管支に詰まることがあります。突然の激しい咳や呼吸困難が特徴です。
- 誤嚥(ごえん): 食事や嘔吐物が誤って気管に入ってしまうことで、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こすことがあります。
愛犬の呼吸器の健康を守るための自宅ケアと注意点
愛犬の呼吸器の健康を維持し、症状がある場合に悪化させないために、飼い主さんが自宅でできるケアや注意点がいくつかあります。
1. 清潔で快適な環境づくり
- 空気の質: 室内の空気を清潔に保つことが重要です。タバコの煙、芳香剤、化学物質、過度なホコリなどは呼吸器の刺激になります。空気清浄機の利用も効果的です。
- 湿度管理: 空気が乾燥しすぎると、気道の粘膜が乾燥し、咳が出やすくなることがあります。加湿器を使用するなどして、適切な湿度(50~60%程度)を保つようにしましょう。
- 温度管理: 極端な暑さや寒さは呼吸器に負担をかけます。特に短頭種や呼吸器疾患を持つ犬は、室温を適切に管理し、熱中症や低体温症に注意が必要です。
- 清潔な寝床: ホコリやダニはアレルゲンとなることがあります。寝床は定期的に洗濯し、清潔に保ちましょう。
2. ストレス軽減と適度な運動
- ストレスの軽減: ストレスは免疫力の低下を招き、呼吸器疾患のリスクを高める可能性があります。愛犬が安心できる環境を整え、過度な興奮や不安を避けるようにしましょう。
- 適度な運動: 激しい運動は呼吸器に負担をかけますが、適度な運動は全身の健康維持に不可欠です。愛犬の状態に合わせて、無理のない範囲で散歩や遊びを取り入れましょう。特に呼吸器に持病がある場合は、獣医さんと相談して運動量や内容を決めることが重要です。
- 肥満の予防: 肥満は呼吸器に大きな負担をかけます。健康的な体重を維持することで、呼吸器への負担を軽減できます。
3. 食事と栄養管理
- バランスの取れた食事: 免疫力を高めるために、栄養バランスの取れた質の良い食事を与えましょう。
- 水分補給: 十分な水分補給は、気道の粘膜を潤し、痰の排出を助けます。新鮮な水をいつでも飲めるようにしておきましょう。
- アレルギー対応食: アレルギーが原因で呼吸器症状が出ている場合は、獣医さんと相談の上、アレルギー対応食を試すのも一つの方法です。
4. 日常的な観察と早期発見
- 愛犬の呼吸を観察する: 普段から愛犬の呼吸の様子をよく観察し、正常な呼吸と異常な呼吸の違いを知っておきましょう。安静時の呼吸回数(1分間に20~30回が目安ですが個体差があります)を把握しておくと、異変に気づきやすくなります。
- 咳の音や頻度を記録する: 咳が見られる場合は、その音、頻度、タイミング、他の症状の有無などをメモしておくと、獣医さんに状況を伝える際に役立ちます。
- 定期的な健康チェック: 自宅での触診や視診だけでなく、定期的に動物病院で健康診断を受けることで、症状が顕在化する前に病気を発見できる可能性があります。
5. 絶対にしてはいけないこと・注意すべきこと
- 自己判断での投薬: 人間用の薬や、過去に処方された薬を自己判断で与えるのは絶対にやめましょう。犬と人間では代謝が異なり、命に関わる危険があります。
- 民間療法への過度な期待: 科学的根拠のない民間療法に頼りすぎると、適切な治療の開始が遅れ、症状が悪化する可能性があります。
- 症状の放置: 「もう少し様子を見よう」と症状を放置することは、病気を進行させ、治療を困難にする可能性があります。少しでも気になる症状があれば、速やかに動物病院を受診することが最も重要です。
- 首輪による圧迫: 気管虚脱の犬などでは、首輪が気管を圧迫し、咳を誘発したり症状を悪化させたりすることがあります。ハーネスの使用を検討しましょう。
- 受動喫煙: タバコの煙は犬の呼吸器に非常に有害です。室内での喫煙は避けましょう。
まとめ:愛犬の呼吸器の異変に気づいたら、迷わず動物病院へ
この記事では、犬の呼吸器疾患について、その症状、考えられる原因、そして飼い主さんが自宅でできるケアのポイントや注意点について解説しました。
愛犬が咳き込む、呼吸が苦しそう、といった症状は、軽度なものから命に関わるものまで、様々な原因が考えられます。インターネット上の情報や、飼い主さん自身の判断だけで対処しようとせず、少しでも「おかしいな」と感じたら、迷わず動物病院を受診することが、愛犬の健康と命を守るために最も大切なことです。
獣医さんは、適切な検査を行い、正確な診断を下し、愛犬に合った治療法を提案してくれます。日頃から愛犬の様子をよく観察し、早期発見・早期治療を心がけましょう。飼い主さんの注意深い観察と迅速な行動が、愛犬の健康な毎日へと繋がります。


